そして戻る途中俺達は話を続けていた。
「そう言えば虎影さん、お尋ねしたいのですが『至高の一刀』と言うのはやはり『闇神』なのですか?それとも『光神』ですか?」
ふと俺は先日からの疑問をぶつけてみた。
すると、虎影さんは首を横に振った。
「いや、『闇神』・『光神』は『至高の一刀』ではない。私の鍛え上げた武具の中でもし『至高の一刀』と言える一刀があるとすればおそらく、『凶神(まががみ)』だろう」
「『凶神』・・・」
思わず息を呑んだ。
「ああ、あれほどの一刀おそらく生涯に二本と創れないに違いない。それほど『凶神』は私にとって最高の傑作だった」
「それで虎影殿、その『凶神』は何処に?」
「もうこの世に存在していない」
「えっ?では既に破壊された?」
「それは正確ではない。『凶神』は今もなお生きている、『闇神』・『凶断』・『凶薙』として・・・」
「なんですって?それはどう言う事ですか?」
「簡単な事、私は最初『凶神』を鍛え生み出した。しかし、そのあまりの力ゆえに私にすら扱いは難しく止む無く『凶神』を二つに分け鍛え直し、『闇神』・『光神』として作り直した。その後、『闇神』は私が所有したが『光神』に関しては七夜の者でも扱える様に更に分け『凶断』・『凶薙』として生まれ変わらせた・・・」
「では・・・『凶神』の力は『凶断』・『凶薙』それぞれの四倍?」
思わず『凶断』・『凶薙』を取り出す。
「いや、おそらくは四乗・・・ん?志貴・・・すまん『凶断』・『凶薙』を見せてくれぬか?」
さらりと恐ろしい事を言った虎影さんだったが不意に表情を強張らせた。
「えっ?はい・・・」
何事かと思ったが俺は二本を差し出す。
すると、虎影さんは静かにただ静かに二本を凝視していたがやがて、
「志貴、お主はこの二本の力をぎりぎりまで使った事はあるのか?」
唐突に尋ねてきた。
「はい」
「やはりか・・・」
「何がやはりなのですか?」
「・・・・・・」
それっきり無言を守る。
「虎影殿もしや、二本の具現化能力が落ちている事に関係が?」
「鳳明、貴殿は気付いているか」
「俺だけではありません。志貴も既に」
「そうか・・・志貴、鳳明、今『凶断』・『凶薙』は・・・死につつある」
「えっ?」
「な、なんですって?」
思わぬ言葉に俺達は絶句した。
「どう言う事ですか!!『凶断』・『凶薙』が死につつあると言うのは!!」
「言葉のままだ志貴。今、この二本は内部から崩壊を始めている」
「内部から・・・」
「ああ、通常いかに大量の妖力を放出しようとも、内部に蓄えられた妖力さえあれば、それらが脆くなりつつある刀身を一時的に補強して妖力を補佐する。しかし、今の『凶断』・『凶薙』にはその妖力自体が内部に極めて薄くしか存在していない。このままでは時間を置かずに二本とも刀身が砕け散ってしまう・・・」
「な・・・」
「しかし、通常であれば自己保存の本能が働いてここまで消耗すれば刀自体が使用されることを拒否するのだが・・・心底お主に心酔している様だな」
「それよりも虎影殿、回復の手立てはあるのですか?」
「手立てはまだある。半年から一年、鞘から抜かず封印するのだ。そうすれば内部の妖力が回復しその妖力が内部の傷を少しづつ癒していくだろう・・・しかし、そのような余裕も無いか?」
「残念ですが、遺産との戦いがある以上、そこまでの長時間の封印は・・・」
「確かにな。しかし今この二本の現状では使えるのは通常の具現化のみ。全ての妖力を使用すれば今度こそ刀身は砕けてしまうだろうな」
つまり『鳳凰』はもう使えないと言う事・・・使えても後一回だと言う事か・・・その時には『凶断』・『凶薙』を失う事になる・・・
こちらにとっては大きな痛手としか言う他無い。
半年から一年遺産が待っていてくれれば良いがそのような甘い考えは捨てた方が無難だ。
仮に無事に『闇神』を破壊したとしてもまだ一つ遺産が残されている。
それも今現在、どんな能力かは無論、何処にあるかすらも掴めていないものだ。
苦い思いを浮かべていたが、神社が間近に迫った時、事態は急変した。
「「「!!」」」
俺達は同時に気付いた。風に乗って運ばれてくる僅かな血の匂いに。
「志貴!!」
「わかっています!!」
途端に俺は駆け出す。そして、玄関には宮司さんが倒れていた。
「宮司さん!!」
俺は慌てて助け起こす。
頭部から出血しているが幸いそれ程酷い怪我ではない。
おそらく何者かが、宮司さんを昏倒させる為に殴ったのだろう。
「う、うううう・・・おお、君は・・・無事じゃったか・・・」
「え、ええ・・・少々夜の散歩に出ていましたから・・・それよりもどうしたのですか?」
「す、直ぐに逃げなさい・・・『闇神』が・・・盗まれた」
「ええっ!!」
その言葉に虎影さんは慌てて封印の場所に向かう。
「宮司さん、盗まれたって・・・」
「そのままじゃよ・・・あの馬鹿者が・・・あれほど危険じゃと言ったのに・・・どちらにしろもう・・・封印は解かれたも同然じゃ・・・このままでは・・・お、鬼が・・・」
それだけ言うと宮司さんは再度気絶した。
俺はとりあえず怪我の手当てを行い宮司さんを布団に寝かせる。
それから慌てて例の社に向かう。
そこには、封じていた筈の『闇神』は姿を消し、社の中ではだらしなく鎖が垂れ下がる。
「虎影さん・・・」
「急ぐぞ志貴。どれほど前に盗まれたか判らん。しかし、時間を置けば置くほど、『闇神』は膨大な力を解放させる。封印の余力が残っている内に見つけ出し、破壊する。封印が解かれればそれは終わりを意味する」
「はい」
そう言うと、俺は虎影さんを再び体内に取り込み駆け出した。
場所を変える。
その道をその男・・・いかにもその道の人間と思わせる柄の悪い・・・は必死になって走っていた。
追っ手など来る筈は無い。
強情な爺は手にもった木槌でぶん殴っておいた。
また、客だと言っていた若造も見当たらない.
やがて、男の眼の前に一人の男が現れた。
毎朝、宮司と口論をしていたあの男だ。
「ご苦労だったな。で物は?」
「へい、旦那これで・・・」
そう言って若い男は手に持つ、布で包まれた物・・・『闇神』・・・を手渡す。
「おおこれだこれだ、ご苦労だったな。では早速」
そう言うと、男は巻かれていた布を躊躇い無く剥ぎ取る。
そこには一見すると長い木の棒があった。
しかし、それを男は一息に引き抜く。
そこには微かに紅く光る刀身があった。
柄の部分には『闇神』と彫り込まれている。
柄にも鞘にも装飾は何もされていない、鍔も無く、ただ実用目的で創られた一本の太刀。
男は数年前、偶然にもこの神社で『闇神』を封じる封印の儀を間近で見た。
それ以来この太刀に魅入られたのである。
この真紅に怪しく光る刀身に、千年以上は軽く経つというのにも関わらず刃こぼれ一つないこの刀に心酔したのだ。
それから男は何度も何十回もいや・・・何千回でもここを訪れ、『闇神』を譲ってくれるよう宮司に迫ったのだ。
しかし、返答は同じ"『闇神』は譲れない"と言うもの。
一時などは金を積んで頼んだがそれもにべも無く断った。
そして、我慢も限界に達した男は遂にチンピラを雇いこの様な強硬手段に訴えた訳であった。
「おお・・・素晴らしい・・・この刀・・・なんと言う美しさよ・・・」
月明かりの中真紅の刀身に陶酔したかのような声を発する。
しかし、次の瞬間それは始まった。
(ふふふふふ・・・感謝するぞ愚かしき人間・・・私を解放してくれた事を)
「??な、なんだ?おい、貴様今何か言ったか?」
「はい?い、いえ、俺は何も」
彼らは知らない。
自分達は途轍もない悪鬼をこの世に呼び起こしたのだと言う事を・・・
(ふむ・・・少し寄り代としては力不足だが・・・構わん。様は一時的な宿であれば良いだけだからな・・・)
「な、なんだ?なんだ!!貴様は何者だ!!」
「は?旦那、何ぶつくさ言っているんですかい?それよりも報酬を頂かないと・・・」
(くくくくく・・・私を解き放ってくれた礼だ。存分に味わえ)
「ひっ!!や、やめろ・・・やめろ!!やめてくれ!!だ、誰かぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「だ、旦那?旦那!!」
『闇神』を握ったまま蹲る男にチンピラは訝しげに肩をゆする。
やがて男は静かに立ち上がった。
「・・・そう言えば報酬がまだだったな・・・」
「へ、へい、そうですよ旦那。せっかく仕事を全うさせたんですから・・・しっかりと・・・あ、あれ?」
「ふふふふふふ・・・」
不意にチンピラが倒れる。
男が『闇神』を地面に突き立て、右手でまるでおいでおいでしている様に振る。
その途端その肉体から白い靄のかかった物が浮かび上がる。
それを男は禍々しい笑みを貼り付かせたまま、軽く摘む。
さらに、男の左手にも何時の間にか、同じ白い靄のような物がつままれている。
(へっ?な、なんだなんなんだ?)
(お、おい!!これはどう言う事だ!!貴様一体・・・)
「ふふふふ・・・さあ、報酬だ」
そう言うと、背後から何かの唸り声が近寄ってくる。
「・・・こいつの餌となり私の血肉となれ・・・」
そう言いそれを摘んだまま、後ろを振り返る。
そして・・・
((ぎゃああああああああああああああああああああ!!!!!!))
声無き絶叫が夜の空に響き渡った。
((!!!))
不意に鳳明さんと虎影さんが俺の体内で戦慄したような気を発した。
(どうしましたか?)
(志貴!!急ぐぞ!!)
(『闇神』の封印が解き放たれた!!)
(何ですって!!)
その言葉と同時に遺産を示すどす黒い瘴気が立ち込めていく。
場所はここからそれ程遠くは無い。
だが・・・
「な、なんだ・・・この瘴気の量・・・尋常じゃない」
そう今まで四つの遺産との闘いを経験した筈の俺ですら足を止めるほどその瘴気の濃度は今までと桁違いだった。
引き返したくなる程の恐怖感を強引に捻じ伏せると俺はその瘴気の中心点に辿り着く。
そこにはいつも宮司さんと舌戦を繰り広げていたあの中年の男性がいた。
いや、正確には男性だったと言うべきだろう。
肉体こそは男性のものだったに違いない。
しかし、その表情は悪意と負の感情に支配された遺産特有のもの・・・
それも鞘から解き放たれた『闇神』を握り締めて。
俺は慎重にナイフを構える。
「貴様・・・『闇神』に封印されていた『凶夜』か・・・」
「ふふふふ・・・いかにも・・・七夜志貴、七夜鳳明・・・そして、久しいな七夜虎影」
「まったくだ。貴様と再度合間見えるとはな・・・七夜幻陶・・・」
虎影さんは俺から抜け出ると苦々しい表情でいう。
「ふふふ・・・人生とは何が起こるかわからん・・・だからこそ愉快なのだがな・・・それにしても七夜志貴よ・・・父が世話になったな」
「父だと?何のことだ?」
俺は首をかしげた。
「忘れたのか?薄情な・・・父と闘ったと言うのに・・・」
そう言って笑う幻陶。
「な、何?」
俺にはその笑みに見覚えがあった。
あの笑みは・・・
「・・・籠庵?」
「ようやく思い出したか・・・そう私は籠庵の息子」
「なんだと!!馬鹿な!!それこそあり得る筈が無いだろう!!」
『凶夜』は子を成す事は禁じられていた筈。
それがどうして・・・いや、待て。
「そういえば・・・『凶夜』の歴史上『二重凶夜』と同様・・・いや、それ以上に恐れられた時代があった・・・確か、『禁断の三代』・・・まさか・・・」
「その通りだ。『禁断の三代』とは我が父籠庵を初代として私が二代、そして私の息子紫影(しえい)をもって三代としている」
「やはりか・・・だ、だが・・・籠庵はともかく幻陶や紫影は『凶夜』の力は持っていなかった筈・・・」
そう、『禁断の三代』はあくまでもその当時の七夜が籠庵を恐れ、籠庵の死後その家族を『凶夜』として処断し、その蛮行を覆い隠す為に貼ったうす汚いレッテル・・・ただそれだけである筈。
籠庵の息子の幻陶、更に孫の紫影には『凶夜』の素質など無かった。
それが何故・・・
「その通りだ。私も息子も『凶夜』でなかった。にもかかわらず七夜は私達を『凶夜』の家族であるという理由で抹殺した。私達には『凶夜』の力を持っていなかったにも拘らずだ。ならばと決意したのさ。『そんなに『凶夜』になる事を望むなら望み通り『凶夜』になってやろう』とな!!そして我が願い『神』が叶えて下さったのよ」
「なんだって!!」
「私と紫影は『神』の恩恵とご加護を受け真に『凶夜』となったのさ」
「そ、そんな事が・・・」
『神』と言うのはただの七夜を『凶夜』にする事まで出来ると言うのか?
「そうなると最後の六番目の遺産は」
「左様、我が息子紫影。しかし、貴様達は息子を見る事は叶わぬ。我が手にかかりこの地で朽ち果てるのだからな!!」
その言葉と共に幻陶は『闇神』を構える。
(志貴!!こうなったら手加減無しだ!!『闇神』諸共幻陶を)
(はい!!)
その瞬間俺は一気に距離を縮める。
短期決戦に持ち込む為に。
しかし、次の瞬間幻陶の握る『闇神』から直視しがたい真紅の閃光が迸る。
危険を悟り、身をかわす、そしてその僅か零コンマ数秒後、『降臨』を三割大きくしたかのような雷が俺のいた場所を抉る。
「ふむ、威力は申し分ない。それにしてもさすがだな。あれをかわすか、しかし次はどうかな?」
そう言うと、空間に六つの刺突を繰り出す。
その地点から閃光が溢れ、次には六つの光は六本の剣や杖となって俺に狙いを定める。
「行け!!」
幻陶の言葉が引き金となって弾丸の速度で俺に襲い掛かる。
咄嗟に『八点衝』を放ち、六発の内四発を叩き落す。
しかし、残り二発は斬撃の幕を掻い潜り俺の眉間と心臓に狙いを定めて襲い掛かる。
ぎりぎりで身体を仰け反らせてからうじてそれを避ける。
二発は俺の後方の大木突き刺さる。
しかし、次の瞬間幻陶は『闇神』を俺の咽喉元に突きつけようとする。
あわてて、俺は転がって切っ先をかわす。そして、遠心力を利用して勢い良く起き上がると躊躇い無く零距離に潜り込む。
「・・・虎突」
そこからナイフを振り上げる。
しかし、それを幻陶はバックステップで避ける。
しかし逃がさない。
そこから更に踏み込み、斜め下に振り下ろす。
距離が若干足りなかったか、ナイフが捕らえたのは布地と皮膚一枚のみだった。
しかし、それを面白そうに見やると幻陶は感心したように笑う。
「ふっ・・・さすがだな志貴。その技量、今まで我ら同志を屠って来た実力は偽りではないと言う事か・・・だが、お前の携える魔刀と我の所有する魔刀で比べればどうなるかな?」
そう言うと、『闇神』を逆手に構え、閃鞘の体勢を取る。
「くっ!!」
咄嗟に閃鞘の構えを取り、同時に放つ。
『七夜』同士がぶつかり合い、『闇神』と『七つ夜』で鍔競り合いが繰り広げられる。
だがそれも一瞬で離れ、今度は『八穿』と『伏竜』がぶつかり合う。
バランスを崩すが、そこから『六兎』で蹴り込もうとする幻陶の一撃をかわし、着地際を『燕襲』で迎撃する。
避けきれないと思ったのか、あえてスライディング・キックを足で受け止め、そこからの切り上げを『闇神』で食い止める。
そこでの無理な攻勢を避けて俺は一旦体勢を立て直す。
見ると、幻陶の身体は閃鞘の過剰な行使の為か全身から出血が夥しい。
おまけに足は裏脛から折れた骨の先端が飛び出している。
「ふっ・・・所詮は借り物の肉体、これが限度か」
しかし、幻陶は薄ら笑いを浮かべて肉体の惨状を見やる
痛覚など感じないのだろう。
「ならば仕方ない。冥土の土産に見せてやろう。我が象徴を」
その瞬間、何処からか狼の遠吠えが一帯に響き渡る。
それが引き金であるかのように、幻陶の側にそれが現れた。
それは狼だった。
それも通常のサイズよりも二倍位の背丈を誇る真紅の毛皮と、金色の眼、そして青白い鬼火を纏った・・・
「な・・・」
「これが我の象徴"魂と共存する魔狼"だ」
そう言うと、幻陶は『闇神』を何の躊躇い無く狼の口に自分の腕ごと差し込む。
その途端、幻陶の仮の身体であった男性の表情から生気が完全に消え失せその場に倒れ込む。
しかも、その手に『闇神』は存在していなかった。
「なに??」
「ふふふ・・・『闇神』と私は既に我が魔狼の体内に息づく・・・」
その言葉と共に狼の額から幻陶の顔が浮かび上がる。
「くくく・・・そしてもはやこの身体も不要」
その言葉が発せられると同時に狼の口から真紅の光が放たれ、男性の身体が消滅した。
「!!」
「くくく・・・さあ魔狼よ、食らうが良い。そして私が認める。暴れまわるが良い」
その声に狼は一声遠吠えすると垂直に跳躍して宙を噛んだ。
それを何度も繰り返す。
「なんだ?何を・・・」
「志貴!!何をしている!!」
「幻陶を葬れ!!あの象徴は魂魄を食らっている!!」
「なんですって!!」
その声が引き金となったのか、俺の視界に白い靄のようなものが映し出される。
狼はその靄を跳び上がるたびに口に咥え、咀嚼し飲み込む。
慌てる俺達に幻陶の嘲笑が響き渡る。
「その通りよ。我が象徴には特殊な力は無い。しかし、食らった魂魄を糧に魔狼は強さを増す・・・行くぞ」
その言葉と同時に狼は地を蹴って俺に襲い掛かる。
俺はそれを『七夜』で迎撃に入った。
しかし、俺の『七夜』は狼の身体を触れる事無く、俺が逆に狼の爪を受けた、
「!!」
ぎりぎりでかわすが、肩口を掠めただけで済んだが・・・
「速い・・・」
「ぼやっとするな!!次が来る!!」
あまりの事実に呆然としていたが我を取り戻すと身体は右に飛ぶ。
間一髪・・・いや、半髪だったか直ぐに狼は俺のいた地面を押し潰した。
その瞬間反転すると、俺は『十星』を叩き込む。
しかし、狼の体毛を数本断ち切ったのみ。
それ故俺は極限まで線を見極める
「我流・・・」
突っ込んできた狼を紙一重でかわす。
「七夜・・・」
そして、すれ違いざま・・・
「影殺・・・」
線を一つ残す事無く通したかに見えた。
「!!」
次の瞬間俺は信じがたい光景を目の当たりにした。
狼は一瞬で通そうとした『七つ夜』の軌道を全てかわし、それどころか前足の爪で俺の胸元から腹部にわたる引っかき傷を与える。
「がはっ!!」
傷よりも前足での突きの方が大きかった。
腹部を一突きされて、呼吸が止まる。
その為僅かな時間動く事がままならない状態となった。
そこを見過ごす筈も無く、狼は即座に俺に圧し掛かり咽喉笛を引き千切ろうとする。
「!!!」
「あっけないがこれで・・・!!」
幻陶の言葉の途中で狼は右に吹き飛ぶ。
俺の手には『凶断』が握られている。
『ヘビーランス』を至近で叩き込んだ結果だった。
もはや出し惜しみできる相手ではない。
確かに幻陶の象徴には特殊な能力こそ存在しないが、その分戦闘能力のバランスの良さは乱蒼の象徴に匹敵・・・いやそれ以上。
このままでは俺がやられるのは眼に見えている。
それならば後先を考えている場合ではない。
更に『七つ夜』を懐にしまい込み、『凶薙』を抜刀する。
「ここからが勝負だ・・・幻陶」
「良かろう・・・ならば後悔するが良い!!我と『闇神』に挑むと言う愚を!!」
その言葉と共に幻陶は俺に襲い掛かる。
俺はそれを『ショットガン』で牽制してから背後に回りこみ至近で『暴風』で包み切り刻もうとするが、既に幻陶は跳躍して攻撃をかわす。
そこを見計らって俺は『八穿』をもって更に上空から切り裂く。
「ちっ!!」
幻陶の舌打ちと狼の鳴き声が交差する。
背中部分がざっくりと二ヶ所斬られている。
「はあ・・・はあ・・・どうだ・・・」
「ふふ・・・中々だ・・・だがな・・・」
幻陶の言葉と同時に狼は再び跳躍する。
その途端傷口は瞬く間に再生していく。
「ちっ・・・また魂を食らいやがった・・・」
「魔狼を滅ぼしたくば全てを一瞬で消してみよ!!」
そう叫ぶと同時に右の前足が空を切る。
その軌道にあわせて真紅の曲刃が三本現れ俺に襲い掛かる。
『凶断』からは『マシンガン』を持ってそれを迎撃に入る。
一発ではかなわないものの、まさしく集中砲火を浴びせようやく吹き飛ばす。
その間隙を突くように『凶薙』から竜を生み出す。
それに対抗するかのように、狼は口から妖気が拳の形をもって吐き出される。
中間点で竜と拳がぶつかり合う。
しかし、出力が明らかに向こうの方が上、竜は吹き飛ばされ拳は突進する。
しかし、その時には俺は上空高く跳躍し隕石群を投下する。
「くっ!!」
さすがに捌き切れないと感じ取ったか、降り注ぐ隕石の隙間を次々と潜り抜け、安全地帯に飛び込む。
「・・・かかったか」
その瞬間、鞘に収めていた『凶薙』を一気に引き抜くと同時に『凶断』を納刀し、竜を身に纏い一気に急降下する。
『鳳凰』以外では、具現化能力最大出力であるこの技を持って一撃でしとめる。
『降竜』はまさに真紅の矢と化し幻陶のいる場所を中心に突き刺さる。
それと同時に轟音が巻き起こり土煙が舞い上がった。